ビーストの日記

よく調べて、正しく決定するという事をみんなしないので、した人が圧勝するなぁとよく思うのです。 公衆衛生・疫学を勉強中ですが、まだまだ精進中です。

仕事におけるスポーツ/体育会の効用について

お疲れ様です。

初めてのブログ更新なのですが、エグい感じでスタートします⭐️

 実は、昨日はCoDA(全日本ディベート連盟)のディベートの主審要請講座というものに参加させて貰ったのですが、改めてエビデンスベースドで議論をする事がいかに重要か、という事を再確認したという感があります。

即興でのディベートでは顕著なのですが、結局、ロジック(根拠に基づく主張)だけでは、相反する矛盾しない主張がなされた際に、両方の主張を主観で重み付けして取れてしまうわけで、結局、実証や事例がないと大きくは取りづらいし、ジャッジの判断もブレがちだよなぁとは思いました。で、それを説明するのが「エビデンス」だと思うのですよね。

 

どちらかと言うと、ここから先はディベーターは余り関係なくて(だってもう大抵はできているから)医学部生や他のクラスタに向けてなのですが、自分の周りでは特に政治的や経済政策的な主張、組織はこうあるべき、みたいな主張をされる方も多いのですけど、まぁその主張は、どれだけ真なのか。という事はもう少し検討されても良いだろうと感じます。

 

例えば、今日は一つ紹介したいのは、「学生はスポーツ/体育会をやっていた方が、昇進できる。うまく仕事ができる。協調性が高い。」という辺りの主張です。

結構ゴリゴリの体育会系の先生が主張されている事も多く、病棟実習でも聞く事の多い話だろうと思うので、大きく親和性を感じる方もいる一方で、拒否反応を示される方もいると思います。医学部以外でも主張されることって結構あると思います。さて、どっちなんやろうねぇ。と思いませんか?

 

いくつか論文を紹介しておくと、中々面白い事実が出てくるように思います。

まず、体育会ではなく、スポーツ一般の経験に関する論文では、肯定的な結果が多いように思います。

Cabane and Clark (2011)は、Charlotte Cabane & Andrew E. Clark, 2011. "Childhood Sporting Activities and Adult Labour-Market Outcomes,"という論文で、アメリカの事例ですが、高校時代にスポーツ経験が週一回あると、成人時の時給が1.5%高い、なんて事例を説明しているようです。理由としては、クラブに所属する方が協調性が高まること、職務遂行性が高まること、組織内でリーダーシップを取る力が高いこと、忍耐力、根性があること、が挙げられています。また、スポーツ活動をしている従業員は健康的で体力があることから、健康・体力面からの人的資本投資が生産性を高めて, それが昇進につながる、という見方も有力のようです。

他の研究なども総合しても、寄与の大きさには議論がありますが、スポーツ一般が人的資本価値を高め、労働者全体で見た際は、賃金や昇進に良い影響があるというのは経済学上はコンセンサスになっているようです(鶴 2014)。

 

一方で、日本において、大卒者とそうでない者を比較をした論文は大変興味深いです。

大竹(2009)の同一企業内(自動車会社)の研究ではありますが、高卒のスポーツ活動は昇進や賃金に有意に影響があるが、大卒の活動は有意に影響がないです。しかも、高卒のスポーツ活動の影響は係長以上になると消えてしまいます。

また、大卒者が熱心にスポーツに取り組んだかどうかは昇進や賃金に寧ろ負の影響があります。論文内では、 学生時代にスポーツ活動をあまりに熱心にしたせいで、勉強が疎かになり、職務遂行に重要な知識人的資本が充分に蓄積されず、職務遂行能力の低下につながり、昇進が遅れることになった、と推論しています。

つまり少なくとも大卒で求められるような職務や係長以上のような高度や職務に関してはスポーツ経験はあまり関係なさそう?という推論がここにできます。

 

これをサポートする結果として、日本の体育会を研究した論文があります。

松崎(2004)では、複数企業で大学時代の体育会出身者が昇進をしたかどうかを分析しており、昇進に正の影響は見られなかったという結果が出ています。また、必ずしも部長やキャプテンが上位の職位に昇進しやすいわけでもなく、むしろ、その可能性が高いのは、「体育会系のクラブ・サークルでマネージャー、主事または会計」 を経験していた者であるという結果でした。著作内で筆者は企業ではマネージメント能力のようなものが企業では求められるのではないかと結論づけています(松繁寿和 大学教育効果の実証分析―ある国立大学卒業生たちのその後 より)。

 

以上の結果からスポーツをやっていたから、大学の体育会だから、昇進が早い、仕事ができる、という結論は少なくとも簡単には、導き得ない可能性は十分にあって(スポーツ経験が個人の能力の向上につながるというのは言えそうですが)、むしろ「高校での部活はともかく、大学では、勉強も頑張っておいた方が良さそう。」というのが出しやすい結論かなぁと思っています。まぁ、考えてみると妥当な結論ですよね。高校までに、スポーツくらい経験しておけよ、大学は勉強はした方がええで、という。

しかも、体育会かどうかは昇進に余り関係なく、更に大学でスポーツを頑張っているであろう主将が昇進に繋がらないというのが、なんとも嫌ですよね。勿論、あくまで傾向に過ぎないので、主将が出世している例なんかはごまんとあるのですが。

また、医学部には当てはまらないよねぇ、という指摘はあり得ると思います。ですので、いつかは、うちの大学やよその大学の人事を追っかけて研究をしてみたいものです…(笑)

 

「スポーツを経験している/体育会出身だと出世/仕事ができる」

という主張に対しては

「スポーツは仕事に対して、賃金などで良い影響を与える。しかし、高校時代はともかく、大学で体育会所属だから昇進できる・賃金が良いという事はない。大卒レベルの仕事では、スポーツを熱心に行う事はマイナスになる場合もある。少なくとも、体育会だから仕事ができる傾向にある、という事は簡単には断言できない。」

というのが現状で出せるせいぜいの結論かなぁと思っています。いろいろエビデンスを漁っていくと面白いですねぇ。個人的にはディベートを学ぶ人が増えて、こういう事に基づいて議論ができる人が増えると良いなぁと思っています。

(ディベーターだと、鶴先生とか、大竹先生とか、絶対ご存知だと思うので、ニヤリとされるのではないかと思います笑)

 

今後、面白い論文を読んだら、ここに共有しようと思います。

このブログは自分が面白いと思った疫学のエビデンス、社会科学のエビデンス、それ以外の記事など(できれば蓋然性高い話をしたいですが)、辺りを紹介する感じにしつつ、自分の忘備録として今後運用していく予定です。

ではでは。また。

ビーストイック ビーハッピー

 

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大竹先生の本、僕は沢山は持っていないのですが、とりあえずこれは面白かったので共有しておきますね。また幸福度に関しては、まとめておきたいですね(疫学もやらなきゃ…)。

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