ビーストの日記

よく調べて、正しく決定するという事をみんなしないので、した人が圧勝するなぁとよく思うのです。 公衆衛生・疫学を勉強中ですが、まだまだ精進中です。

インフルエンザ予防に関する簡単な考察

気候も秋めいて、風邪・インフルエンザ・肺炎の季節となってきました。

今回とある人に「インフルエンザの予防に、うがいって効果があるんですか?手洗いはなんとなく効果があるような気がしますが、うがいってどうなのでしょうか?」という事を聞かれ、自分もはっきりしたことをすぐ言えなかった為、簡単にリサーチをしました。

まずそもそも、インフルエンザや感冒の予防に手洗いやマスクは効果があるのでしょうか?効果がないと言っている人を多く見かける気がしますが(中高の先生や同級生でもそんな話をしている人が一杯いた気がします)、実際はちゃんとエビデンスがあります。
イタリア・Cochrane Collaboration急性呼吸器感染症研究グループのJeffersonらの2009年のシステマティックレビュー(文献1)では、自宅でのインフルエンザ感染者に対する感染防御策を検証しました。手洗い、マスク着用、外出規制・自粛の要請などの低コスト予防策に効果が認められ、特に(1日10回以上の)手洗いとマスク着用のオッズ比はそれぞれ0.45(95%CI1:0.36-0.57)、0.32(95%CI:0.25-0.40)という結果で、これは十分な結果と言えるものかと思います。一部、マスクの装着に関しては幾つかのランダム化比較試験で、否定的な結果も出ています(文献2,3)が、文献3ではマスク装着の遵守率の悪さが結果に影響した可能性も指摘されており、装着をきちんと行えばpreventiveな結果が出た可能性が高いようです。マスクのランダム化比較試験はこのレビュー内では2報のみとなっています。

マスクよりも、手洗いに関してはもう少し良いエビデンスがありそうです。先のシステマティックレビュー内でも手洗いに関しては12報のランダム化比較試験があります。その一報を紹介すると、パキスタンのカラチ地区というスラムにて2002年4月〜2003年4月に渡って、15歳以下の小児に対して手洗い指導と衛生指導を行った効果を評価した研究があります。この研究では地区ごとに介入をランダムに割り付け、抗菌剤添加石鹸、通常石鹸、介入なしに割り付け、対照群1528人、抗菌石鹸群1523人、通常石鹸群1640人でした。アウトカムは小児呼吸器感染症、皮膚病、下痢でしたが、呼吸器感染症に関しては、週間発生数は対照群100人当たり4.40に対して、通常石鹸群は100人当たり2.20と約半数の減少を確認できています(文献4)。また、抗菌石鹸と通常石鹸には有意差はありませんでした。

更に興味深いのはマスクの感染予防効果は手指衛生による影響も受けると考えられるという事です。先ほどのJeffersonらの報告内(文献1)では、香港のマスク着用による家庭でのインフルエンザ予防のランダム化比較試験(文献2)に触れられており、こちらはマスクの着用の割付では、家庭でのインフルエンザの二次感染(家族からの感染)に有意差は出ていないのですが、発症から36時間以内でマスクに加えて手指衛生を行った群ではインフルエンザ感染は有意に減少しています(オッズ比:0.33 95%CI:0.13-0.87)。これはマスクを触った手が鼻や口に触れる事で感染が成立するような機序も考えられるでしょう。

実は、このような結果はWHOのインフルエンザ(H1N1)予防ガイドラインにも反映されており(文献5)、WHOではマスクの使用は一応は推奨されていますが、一方で使用後の廃棄や装着したマスクに触らないこと等が重視されており、手洗いの方が推奨度が高くなっています。

なので、マスクは無理には必要ないが必要を感じれば注意深く実施、手洗いはエビデンスが蓄積しており、推奨度が高いというのが現況と思います。

 

一方、本題のうがいに関しては、文献報告は多くはありませんが、幾つか日本を中心とした報告でお茶や水でのうがいがインフルエンザ予防の結果が出ているようです(文献6,7)。ちなみに、イソジンでのうがいは効果なしと言われています(文献7)(一説には有害とも言われているようです)。多くの文献では回数としては1日3回程度かそれ以上です。
その後も緑茶によるうがいの研究のメタアナリシスも組まれており、リスク比が0.70倍との結果も出ています(文献8)。
うがいに関して、海外の報告は余り多くありませんが、渉猟の限りでは、否定的な結果は出てはいないようです。症状緩和ではありますが、アメリカではうがいにはちみつを使用する事に肯定的な評価もあります(文献9)。

ただ、多くの論文でも述べられているのは、マスク、手洗い、うがいの介入はコンプライアンス遵守(みな実行しない)が難しく、そこが結果を小さくしている面もあり、個々人がきちんと予防策を取れば罹患のリスクは更に小さくなる事が考えられます。

 

という事で回答としては、うがいは、マスクや手洗いに比べて、ややエビデンスが足りず、効果量も小さいものの、「効果がゼロ」とまでは言い切れない、という所なのかと思います。そして、もっとも推奨されるべき施策の一つは手洗いではないかと思います。


【参考文献】
1) BMJ. 2009 Sep 21;339:b3675. 
Physical interventions to interrupt or reduce the spread of respiratory viruses: systematic review.
Jefferson T, Del Mar C, Dooley L, Ferroni E, Al-Ansary LA, Bawazeer GA, van Driel ML, Foxlee R, Rivetti A.

2) PLoS One. 2008 May 7;3(5):e2101. 
Preliminary findings of a randomized trial of non-pharmaceutical interventions to prevent influenza transmission in households.
Cowling BJ, Fung RO, Cheng CK, Fang VJ, Chan KH, Seto WH, Yung R, Chiu B, Lee P, Uyeki TM, Houck PM, Peiris JS, Leung GM.

3) Emerg Infect Dis. 2009 Feb;15(2):233-41.
Face mask use and control of respiratory virus transmission in households.
MacIntyre CR, Cauchemez S, Dwyer DE, Seale H, Cheung P, Browne G, Fasher M, Wood J, Gao Z, Booy R, Ferguson N.

4) Lancet. 2005 Jul 16-22;366(9481):225-33.
Effect of handwashing on child health: a randomised controlled trial.
Luby SP, Agboatwalla M, Feikin DR, Painter J, Billhimer W, Altaf A, Hoekstra RM.

5) Advice on the use of masks in the community setting in Influenza A(H1N1) outbreaks.
Interim guidance.

WHO | Advice on the use of masks in the community setting in Influenza A(H1N1) outbreaks

国立感染症研究所による和訳版あり 市中でのマスクの使用

6) J Altern Complement Med. 2006;12(7):669-72. Epub 2006/09/15.
Gargling with tea catechin extracts for the prevention of influenza infection in elderly nursing home residents: a prospective clinical study. Yamada H, Takuma N, Daimon T, Hara Y. 
7) Am J Prev Med. 2005;29(4):302-7. Epub 2005/10/26. Prevention of upper respiratory tract infections by gargling: a randomized trial. Satomura K, Kitamura T, Kawamura T, Shimbo T, Watanabe M, Kamei M, et al. 
8)BMC Public Health. 2016 May 12;16:396.
Effect of gargling with tea and ingredients of tea on the prevention of influenza infection: a meta-analysis.
Kazuki Ide, Hiroshi YamadaEmail author and Yohei Kawasaki
9) Urol Nurs. 2009 Nov-Dec;29(6):455-8.
Conventional and alternative medical advice for cold and flu prevention: what should be recommended and what should be avoided?
Moyad MA.

座位時間と生活習慣病

無事、国家試験に受かりまして、4月より研修医生活始まりました。

ちょうど6月の抄読会で論文をレビューしたので、その時のスライドを修正してアップロードします。2,3日で作った内容なので、若干読み込みや説明が甘いところもありますが、運動だけでなく、「座位時間」が生活習慣病指導において重要なのでは?という内容の資料です。もしよければご覧ください。

 

www.slideshare.net

BLS(一次救命措置)・心肺蘇生法のエビデンスレビュー

お久しぶりです。

色々と授業やゼミ、論文などが忙しく、ブログの更新をしていませんでした…

この前授業でBLS(Basic Life Support:一次救命処置)に関してガイドラインの範囲内ですが、エビデンスの紹介をしたスライドを作りましたので、ここに上げておきます。

これを見て、心肺蘇生法を学ぼうという人や心肺蘇生を躊躇なく行おうという人が増えると嬉しい限りです。

自分が専門にして取り組んでいる問題の一つではあるので、間違いなどはないとは思うのですが、間違い、指摘など有りましたらご連絡下さい。

 

www.slideshare.net

 

 

ビーストイック!ビーハッピー!

福島甲状腺がん罹患率50倍に関するレビュー(試論)

もう結構前ですが、2015年のepidemiology誌での福島甲状腺がんの発症率が多発しているという研究結果をきっかけに福島での甲状腺がん発がんの増加の有無が議論となっています。この前もある友人に、これってどうなの?増えてるの?と聞かれ、心境は「マジか…」となったことは内緒です。

福島・甲状腺検査 子のがん「多発」見解二分 過剰診断説VS被ばく影響説

個人的には果たして専門家の意見が2つに割れているかは疑問なのですが(僕の知る限り、甲状腺がん増えているという指摘をしている疫学者は津田先生しか出てきません)、様々な雑誌、記事、ブログなどで、岡山大学の津田先生が出された論文の批判的検討が行われています。

www.gepr.org

drmagician.exblog.jp

津田先生の論文によって何か新しい知見が加えられる事はないというのが疫学者、医師らの専門家の大筋の見解かと思います(うちの研究室の勉強会でも検討されていましたが、そもそも研究デザインとして問題が大きいという批評がなされていました)。

先日そのような質問を(割と真っ当な人に)真面目にされた事に危機感を感じたという事と、丁度2016年2月に津田先生によるレターに対する反論が出ており、これも含めて検討を行うことには多少は自分にとっても(勉強という文脈でも)意味があるのではないかと考え、試論ではありますが、ここで論考します。

 

①まず、甲状腺がん罹患率50倍はスクリーニングでは十分に考えられる値である事

これは何度も言われている事ですが、スクリーニングを行うと一般にその集団の罹患率は上がります。これは本当ならば無症状だった者、若しくは悪性腫瘍ではなかった者、自然に消退していた者を見つけているという事です。ここで、甲状腺がんのスクリーニング効果が大きいとされる根拠として良く引用されるデータは2014年のThe New England Journal of Medicine で報告された韓国のデータです。

Hyeong SA, et al. N Engl J Med 2014; 371:1765-1767. Korea's Thyroid-Cancer “Epidemic” — Screening and Overdiagnosis

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韓国は1999年から甲状腺がんのスクリーニング検査を開始しましたが、その後劇的に甲状腺がん罹患率(Thyroid-cancer incidence)は増えています。スクリーニングを開始してから、甲状腺がん罹患率は15倍にも増えている事が報告されています。ここで注目すべきはこの間、甲状腺がんによる死亡率は全く変わっていないことで、これは過剰診断を示唆しています。甲状腺がんの増加は進行の遅い乳頭がん(papillary thyroid)が増えている事が原因である事も見るべきポイントだと思います。

これに対して、この韓国での15倍の発生率増加と福島での50倍を比較して、福島はスクリーニング効果だけではないという主張も見かけるのですが、論文の中身を読めばそのような批判は当たらない事はすぐにわかります。韓国のスクリーニングでは、およそスクリーニング受診率10%上昇に対して、10万人当たり40人の甲状腺がんの上昇に繋がっています。津田先生の論文で解析されている福島の一巡目の検診の受診率は80%を超えていますから、それだけで10万人当たり320人の増加を説明する事になり、これは韓国でのスクリーニング前の罹患率との比較では60倍以上になります。ちなみに、今回の論文中での主張は放射線被曝により、通常は100万人当たり3人の甲状腺がん発症が20倍から50倍になったというものですから、これはスクリーニング効果で説明できる範囲内と言えるでしょう。

この後、韓国は悉皆調査を取りやめたそうで、結果甲状腺がん罹患率が低下している事も報告されています。

South Korea’s Thyroid-Cancer “Epidemic” — Turning the Tide N Engl J Med 2015; 373:2389-2390

彼はレターの中で、スクリーニング効果に対して、上記のような疑問には直接答えずに、少なくとも発見されたがんは福島県立医大に送られ、悪性と判断され、手術が行われたものがいるという主張を行っています。(主張の中で、以下の文献をそのまま引用しています:https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/129308.pdf

しかし、上記文献も殆ど全てが病理上、予後の良い乳頭がんであるし(しかもステージ分類上は最も安全なT1以下である)、手術前には判明しないが、手術後の病理で発見されるリンパ節転移は、予後に影響しないことは本文中で指摘されている通りで、このデータから、福島の甲状腺がんが、原発事故前にも発生していたが、見つかっていなかった甲状腺がんと異なっていると言うのは難しいでしょう(果たして津田先生はこの文章を正しく読んでレターに引用したのか激しく疑問を覚えました。また彼の主張する発生率の増加の大部分がスクリーニングによるものであるという指摘にはレターで応答しておらず、この点は不誠実でしょう)。

 

②コントロール群の設定に問題がある

これは①の話の原因とも言えますが、津田先生の論文では、甲状腺がんの発症増加を論ずる為に、比較している対象が全然違うグループだという事です。今回津田先生が、福島と比較する為の対象にしているのは国立がんセンター罹患率です。しかし、これは自覚症状がある患者です。つまり、甲状腺がんの症状がある患者、熱があるとか、なんか喉に触れるものがあるとか、飲み込む時につかえる、という患者が自分で病院に来て、その患者のデータを集めてきた結果で、それを自覚症状のないスクリーニングと比較して、「何倍になった」というのは比較になりません。日本の文献ですが、自覚症状のある甲状腺がんの腫瘍径は、そうでないスクリーニングで発見された腫瘍径よりも1cm以上異なるようです(坂東ら 日本耳鼻咽喉科学会会報 117巻7号 Page914-921(2014.07))。発見されたがんの多くは質的にも自然発症のがんと異なる可能性が高そうです。

 

③潜伏期間の設定の問題

この論文では潜伏期間が4年と設定されており、それを根拠に、発見したがんは原発事故によるものだという報告をしています。しかし、4年では期間が短すぎる為、今回発見されたがんは福島の事故とは無関係と考える人も多いでしょう。上述したように甲状腺がんは進行の遅いがんだという事が知られており、多くの人が甲状腺がんを持っている事が剖検例からも報告されています。古い研究ですが、フィンランドの100例以上の剖検からは35.6%の患者から組織的に甲状腺がんが発見されたという報告もあります(Harach HR,et,al. A systematic autopsy study. Cancer 56(3):531-538, 1985.)。

ここから言えるのは甲状腺がんは基本的には緩徐に進行するものだと言う事です。一研究例ではありますが、日本で微小甲状腺乳頭がん1235例に対して75ヵ月の観察を行い、進行を見た研究でも、3mm以上の腫瘍の増大は10年で8%というスピードであり(宮内ら 日本甲状腺学会雑誌 (2185-3126)6巻1号 Page25-29(2015.04))潜伏期間を4年と置く事ができる根拠も弱く、津田先生は、今回発見されたがんが、事故以前のものではないという事を証明する事に失敗しています。

 

チェルノブイリとの比較の強引さ

これらの主張を承けて、津田先生のレターでの反論はチェルノブイリと比較をしても、甲状腺がんの発症率の高さは十分であるというものです。しかし、チェルノブイリは20年前の事故で、その時の甲状腺がんの検査(後述するが悉皆検査ではない)と今のスクリーニングを比較して、議論しようというのには無理があります。近年、世界的にも甲状腺がんが増加しており、特に1cm未満の小さな径のがんが顕著に増加している事が指摘されています(Davies L, Welch HG:Increasing incidence of thyroid cancer in the United States, 1973-2002. JAMA 295(18):2164-2167, 2006)。これは近年の超音波の性能が上昇している事、これによる過剰診断が増えている事が指摘されています(Davies L, Welch HG:Current thyroid cancer trends in the United States. JAMA Otolaryngol Head Neck Surg 140(4):317-322, 2014)。果たしてこのような状況の中で、チェルノブイリの時代の結果と、現代の日本の悉皆調査を比較できるかと言えば疑問でしょう。日本におけるスクリーニング検査では微小なものがかなり発見されている可能性が高いです。実際、今回の判定でも結節は5.1mm以上が二次検査に回されているようで、このサイズが果たして80年代から90年代に発見されたものと同一の程度のものかはかなり疑問が残ります。

fukushima-mimamori.jp

また、彼は自らチェルノブイリでは被爆時7歳以下(3年後の調査で10歳以下)の子供に発症が特に多かったことを反論のレター内で引用をしています。しかし、上記の福島の検査データでは、原発事故当時7歳以下だった子供(11歳以下)に関しては殆ど細胞診で悪性疑いが出ていません。これもチェルノブイリと福島をアナロジーで見れない理由の一つです。そもそも被曝量が福島より多いチェルノブイリでの増加は4年間で10倍程度(しかも、チェルノブイリは悉皆調査ではなく、自覚症状のある者の受診による発見であるから②の理由でも比較が不可能です。)で、それと比較しても明らかに多い福島の事例を放射線被爆が原因だと断定する事はできません。

 

以上のように、「反論しようと考えれば、幾らでも穴がある」というのが当該論文の現状で、余り疫学者・公衆衛生学者は相手にしていないのが現状ではないかと思います(上記に挙げた議論以外にも量反応関係やモデルの問題等、指摘できる点は沢山あります)。やはり上司も話題にしていましたが、なんでこんな穴だらけの論文がepidemiology誌に通ってしまったかは、かなり疑問で、投稿後すぐさまレターが世界から7通も来るというのは正直異様です。査読は何してたんでしょう…

また、そもそもの議論として、あの福島の悉皆調査は、設計者はこの結果を予想していなかったのかが、疑問で、悉皆検査を行うべきかどうかは、もっと議論されても良いと思いました。リスクコミュニケーション的にもまずいやり方だったと思います。実際チェルノブイリ甲状腺がんの評価に、スクリーニングによる悉皆調査をしている訳ではなく、cohortによる集団評価で発症者の調査を行っています。②で述べたようにコントロールとの比較可能性でも、スクリーニングではなく自覚症状有りな者と比較をすべきで、このような悉皆検査を行う事で、今後発症者を追いかけようにも、全例スクリーニングによるバイアスが入ってしまい、他地域との比較が不可能になってしまいます。チェルノブイリで有名なのは、Ron E, et.al. Radiat Res. 1995 Mar;141(3):259-77. Thyroid cancer after exposure to external radiation: a pooled analysis of seven studies. でしょうか、こちらはcohortを複数集めたプールドアナリシスです。福島と違って線量の評価もされているので、量反応関係も評価に入れられています。5年も経ってしまうとかなり住民の移動が進んでしまい、個人の線量の評価も福島は現時点ではほぼ不可能です。調査の設計…orz

 

という訳でかなり問題アリな論文で、現時点では甲状腺がんの動向に関してはなんとも言えないはずなのですが、ネット上で調べると、良くわからない商法?にハマっている人が沢山出てきて大変な分野だなと思います。ネットの普及によってアブナイ人達が可視化された感じなのでしょうか。ここに学生レベルではありますが、簡単な検討を紹介する事として、本稿を終わりたいと思います(勿論、建設的な議論や疑問・質問は歓迎したいです)。

 

ビーストイック ビーハッピー 

スクリーニングの意味:なぜ入院患者には多くの検査が行われるのか

診断検査、皆さん色々受けられると思います。血糖値の検査、血圧測定、CT・MRI検査、レントゲン、心電図などなど。実は聴診や触診などの身体所見も診断検査と言える要素はあります。そのような検査はその中でも診断のためのスクリーニング検査がどのように行われているかを考えてみます。

 

検査法の妥当性は罹患の有無を判断する能力で判断されます。その指標として感度(sensitivity)・特異度(specificy)という指標があります。感度とは罹患している人を「疾患あり」と正しく識別する能力、特異度とは罹患していない人を「疾患なし」と正しく判別する能力として定義されます。そして良く考えていただければわかりますが、それらはトレードオフの関係にあり、感度をあげようと考えれば、特異度は落ち、特異度を上げれば感度は落ちます(極端な事例を考えていただければわかりやすいかもしれません。全ての人を疾患ありに分類すれば感度は100%になりますが、一方で特異度は0%になります。陽性判定出す度に、疾患がない人も、陽性判定されます。)。生検のように感度・特異度共に高く、ほぼ全ての事例正しく分類できる検査方法も存在しますが、そのような正確無比な検査は多くありません。また多くはお金がかかったり、侵襲性が高いために、より簡便な検査がスクリーニングの段階では用いられます。

感度特異度の関係は以下のような表で表されます。

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上記表では、感度は80/100で、80%。特異度は800/900で、89%となります。また、実際は疾患がないのに、誤って陽性と判断してしまうことを偽陽性、疾患があるのに、誤って陰性と判断してしまうことを偽陰性と言います。実際に陽性と判定されても、疾患頻度がある程度低いと、本当に疾患がある確率が低くなってしまうという話は授業でも良く触れられる内容だと思います(今回で言えば、疾患ありと判断されて、本当に疾患のある確率:陽性的中率は80/180で、44%しかありません)。

ここで注目してもらいたいのは、疾患の頻度に応じて、偽陽性偽陰性がどのように変化するのかという所です。検査の感度特異度が変わらなくとも、疾患頻度が上がれば(表中の下段の100対900が500対500などに変われば)、偽陰性の頻度は増えますし、逆に疾患頻度が下がれば(表中の下段の100対900が1対999などに変われば)、偽陽性の頻度は高くなります。

 

これが検査の方法にどのような影響を与えているのかを考えてみます。

検診や外来で行われる検査方法に二段階検査というものがあります。血液検査や簡単な聴診などを行って、異常値のある人だけをもう一度外来フォローアップとし、さらに検査を加え、二回の検査共に異常値だった人は入院などを通じて精密検査に回されます。二段階の検査を行い、両方の検査で陽性だったもの精密検査に回すというやり方です。この検査方法では(細かい計算は省きますが)、感度は落ちますが、特異度は上がります。段階を2回3回と増やしても同じですが、陰性者が出るたびに検査ラインから外しているので、正しく疾患がない人を検査ラインから除外する事は可能ですが、疾患がある人を見逃す可能性は高くなるためです。

 

一方で、入院患者に行われる検査の手法は同時検査というものです。同時検査とは同じ患者に一気に様々な検査を行い、どこかしら異常値が見つかったら、異常ありと判断し、更に精密検査などを追加するというやり方です。この検査方法では特異度は落ちますが、感度は上がります。何かしら異常値を見つけたら検査に回すことになるので、疾患がある人を見逃す可能性は低いですが、異常のない人を異常ありと判断してしまう可能性も高まります。

 

これらの検査方法には長所短所があることがわかったと思いますが、実はこれらの場面に合わせた検査方法の選択は疫学的アプローチとしても非常に合理的であることがわかります。なぜならば、外来患者や検診受信者と入院患者では疾患頻度が大きく異なるからです。一般に入院患者は原疾患が重症であるために、原疾患以外にも様々な合併症を持ち合わせている事が多く、入院をきっかけに、重篤な合併症が見つかる事例も少なくありません(例えば、糖尿病が原因で教育入院したが、検査を通じて腎障害や冠動脈疾患が見つかるなどの事例がそれに当たるでしょう)。そのため、疾患頻度の高い入院患者では検査で誤って陽性と判断するよりも、誤って陰性と判断してしまう可能性が高くなります。先ほどの表の下段の疾患の有無の実数が500対500になったと想定してみてください。同じ検査を行っても偽陰性の割合が高くなってしまうため、入院患者では疾患を見逃すデメリットが大きく、感度を上げる為に同時検査を行うのです。

逆に外来や検診では健康な人や活動性の高い疾患のない人が多数派で、誤って陽性と判断する事は彼らに多くの金銭的・時間的負担を強いてしまうことになります。先ほどの表の下段の疾患の有無が1対999になったと想定してみます。同じ検査でも今度は偽陽性の割合が高くなる事になります。今度は特異度を上げる検査戦略が合理的になります。

 

実は医療者の立場に立って考えてみても、この検査方法は合理的です。入院患者では、患者さんの容体に責任を持ち、時間を割いて接している分、見逃しは医師にとって重大な問題です。訴訟にも繋がりかねません。彼らにとって一つの事例を見逃す事の質は(感度を落とする事は)、一つの事例を誤って陽性に入れてしまう事の質(特異度を落とす事)より大きいと考えられます。

一方で、外来や検診では、限られた時間の中で一人の患者に多くの時間をかけるよりも、より多くの(多くは大きな疾患のない)患者を見て、診断を(注:勿論、見逃しは許されません。が、入院患者と比べ相対的に)大まかに下す事が必要になります。長い列が外来室の外で作られている事でしょう。一人の患者の為に多くの患者を見ない事は、残りの患者の見逃しに繋がりますし、その医師の評価を下げるかもしれません。

 

このように考えると、実は何気ない検査方法は実は非常に合理的に設計されたものなんだと思えます。

 

参考図書:疫学 -医学的研究と実践のサイエンス- / Leon Gordis

www.amazon.co.jp

 

ビーストイック ビーハッピー

「飲酒が健康に良い!」は本当か?

(追記:下記は試論です。もっともっと論文のレビューが重ねられるべきではありますが、自分の研鑽が足りず、全然レビューできていません。ただ、一般に下記のような「Jカーブ効果に関する懸念」が出ている事は事実だと思います)

 

「飲酒が健康に良い!」は本当なのでしょうか。

その根拠となるデータは、一般に飲酒のJカーブ効果と呼ばれています。

公衆衛生上、適度な飲酒は心疾患リスクなどを下げ、死亡率の低下に寄与すると言われています。例えばこんなグラフで表現されたりします。この形がJっぽい形していますよね?そのため、Jカーブ効果と呼ばれます。

だいたい1日平均アルコール摂取量20g以下(ビール中ビン一本くらいです)は適量と考えられていて、それ以下は死亡リスクをむしろ下げると考えられています。

f:id:ishiyoshi414:20151222110906j:plain

飲酒とJカーブ | e-ヘルスネット 情報提供厚生労働省のサイトです)

 

日本の勤務者(40歳〜59歳、男性)を調べた研究でも、1日2合の飲酒者では冠動脈疾患発症リスクが非飲酒者に比べ60%低かったという報告もあります※1。米国の医療従事者38,000人の健常男性を調べた研究でも、1週間に3日〜4日以上の飲酒者では、飲酒日数が週1日未満の人に比べ、心筋梗塞発症リスクが30%低かったという結果が出ています※2。このような研究結果から、上記Jカーブ効果は(今まで)世界的に支持されていた考え方です。医学部の先輩や同級生に飲酒の危険性を伝える際に反論として用いられるのは必ずと言っていいほどJカーブ効果です(そもそもJカーブ以前に、一回飲酒量が多い事がリスクになるという話があるのですが、それはまた後日…)。

※1 Alcohol Intake and Premature Coronary Heart Disease in Urban Japanese Men

※2 以下

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

ここでbiologyの方なら絶対疑問に思うのは(自分はmolecular biologyが専門ではないので、その事に関して書くのは恐縮なのですが)、その分子生物学的機序でしょう。ただ、少なくとも現在飲酒が心血管リスクを下げる事に関する明確な分子学的な機序は判明していないのです。実際、大学の疫学上の心血管イベントをご専門の一つにしている先生に聞いた所、「明確な機序はなく、飲酒によるストレスの減少などが血管拡張に作用しているという位しか考えにくい」との答えでした。

一応バイオマーカーの探索も、過去に大規模に行われていて、そこで提案されている分子はHDL-C(いわゆる「善玉コレステロール」というやつです。高分子リポたんぱくですね。これは組織から肝への脂肪の輸送を行うコレステロールなので、体内で脂肪代謝が促進されていることの指標になります)ですが、これはこれで、様々な形で影響を受ける分子で、普段の生活スタイルで容易に変動しうるものです。

参考文献:Effect of alcohol consumption on biological markers associated with risk of coronary heart disease: systematic review and meta-analysis of interventional studies | The BMJ

 

飲酒は一般に所得が大きい層は飲む量が多く、WHOの国別の統計でも示されていますし、日本国内の統計でも高所得者の間で、飲酒者の割合は多いです(これは一般に、所得が増えると、人付き合いが増えるためと言われています)。

しかし、所得が多い事は寿命を延ばします。一般に所得が高い人は、野菜摂取量が多い事だったり、運動量が多かったり、健康リテラシーが高かったりするためです。また、高所得者で多いと考えられる人付き合いの量自体も、社会の活動性を高める事を通じて様々な形で疾患リスクを下げる事が提唱されています。石川善樹さんが TEDでプレゼンして有名になりましたね(元論は下です)。

logmi.jp

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

で、そのように他のデータも組み合わせて考えていくと、飲酒のJカーブ効果は怪しいと考えるのが当然のように思えてきます。特に「禁酒者」と呼ばれるような全くお酒を飲まない人にはお酒を飲むだけの生活の余裕がなく、生活習慣が悪い人が多く含まれていると思いますし、飲酒量が適量な人(20g未満)は高所得の人の中できちんと節制ができている(≒健康リテラシーが高い)人を抽出してしまっている可能性がある。また、飲酒をするような人付き合いの広い層は、そもそも疾患リスクが低い。Jカーブ効果の研究では大抵、交絡因子の調整を行っていますが(教育歴や運動量など)、調整しきれていない要因がある事は否定できません。しかも、これらの研究の最大の問題は飲酒量の評価が質問紙ベースであるために、細かいレベルでは飲酒量を測定できないことです。そのため、量反応的に飲酒量と疾患イベントとの関係を見ることができないのです。結果、前述の交絡の懸念がますますつきまといます。

そもそも飲酒は全体としては疾患リスクの上昇に寄与していると言われており、先行研究では全疾患の4~10%程度の説明要因と考えられています。分子学的な機序もわからず、疫学上も解析上の問題が絶えない中で、

「実は飲酒は疾患リスクを下げることはないのではないか?(健康に良いという事はないのでは?)」

という疑問がくすぶっていた中で以下の論文が出てきて物議をかもしているようです(やっと本題の紹介したい論文に入れましたw)。

 

中等量以下の飲酒者でも摂取は心血管健康に有益(アルコールと心血管疾患の関連:参加者個別データに基づくメンデル無作為化解析)

Association between alcohol and cardiovascular disease: Mendelian randomisation analysis based on individual participant data | The BMJ

 

この研究の画期的な所はADH1Brs1229984のAアレルの所有者(以下Aアレル保有者とします)は、アルコール摂取量が少ないことが知られており、これをマーカーとして飲酒量を測った所です。つまり、体質的にアルコールが飲みにくい人を対象に研究デザインが設定されています。つまり、社会的活動性などの交絡を考える必要がなくなります。

(余談ですが、この前統計解析を専門にしている友人とも話したのですが、デザインやデータの取り方で研究は8割ほどクオリティが決まってしまっていて、分析の仕方が世の中フィーチャーされることも多いですが、分析のやり方って本当に成果の中で些細な部分なんだと思います。)

研究対象者は欧州系人種261,911人で、飲酒量は全体としては欧州平均に近い集団をサンプリングしているようです。手法は56件の疫学研究を対象としたメンデル無作為化解析です。アウトカムは冠動脈疾患と脳卒中のオッズ比としています。

結果はAアレル保有者では週あたりのアルコール摂取量がAアレル非保有者に比べ17.2%少なく、禁酒率が1.2倍程度高いことが研究からわかりました。アウトカムもAアレル保有者では冠動脈疾患のオッズ比は0.90と低く、虚血性脳卒中のオッズ0.83と、低かったようです。この結果からアルコール摂取量が(欧州平均に近い)中等量〜少量にかけてであっても、節酒をした方が健康に有益であると考えられます。今までの研究結果と真逆の結果は質問紙ベースでの飲酒量評価に疑問を投げかけているようです。

(今年出たBMJへのレター)

Mendelian randomisation meta-analysis sheds doubt on protective associations between ‘moderate’ alcohol consumption and coronary heart disease -- Chikritzhs et al. 20 (1): 38 -- Evidence-Based Medicine

ただ、この研究の限界として、そもそもAアレルを持っている人が別の分子学的機序によって心血管リスクを下げている可能性もあり、そこら辺は検討課題とされています(ただ可能性は低いでしょう)。

 

少なくとも飲酒が健康に良いのか悪いのかは「むしろ悪い」というエビデンスがこれ以外にも最近注目を集めるようになってきており、酒税の増額を含めた規制強化が欧州では行われています。

日本の医療システムは「欧米の良いとこ取りを後からする」という形で進んでいます。そのため、飲酒の健康への影響が可視化されれば、飲酒量規制の波が日本に来る事もあるかもしれません。

「健康に良いから」という理由で飲酒を続けたり、強要するのは実はよくよく調べると根拠が薄い発言である可能性もあるのです。

(という煽り文を置いておいて今日は終わろうと思います。医学部生には飲酒量・飲酒習慣態度が悪い人が比較的多い為に、恨みを持って書いた文章では決してありません。決して。)

 

反論やアドバイスなどは受け付けます(正直、論文をもっともっとレビューすべきです)。良い議論をしましょう。

ビーストイック ビーハッピー

仕事におけるスポーツ/体育会の効用について

お疲れ様です。

初めてのブログ更新なのですが、エグい感じでスタートします⭐️

 実は、昨日はCoDA(全日本ディベート連盟)のディベートの主審要請講座というものに参加させて貰ったのですが、改めてエビデンスベースドで議論をする事がいかに重要か、という事を再確認したという感があります。

即興でのディベートでは顕著なのですが、結局、ロジック(根拠に基づく主張)だけでは、相反する矛盾しない主張がなされた際に、両方の主張を主観で重み付けして取れてしまうわけで、結局、実証や事例がないと大きくは取りづらいし、ジャッジの判断もブレがちだよなぁとは思いました。で、それを説明するのが「エビデンス」だと思うのですよね。

 

どちらかと言うと、ここから先はディベーターは余り関係なくて(だってもう大抵はできているから)医学部生や他のクラスタに向けてなのですが、自分の周りでは特に政治的や経済政策的な主張、組織はこうあるべき、みたいな主張をされる方も多いのですけど、まぁその主張は、どれだけ真なのか。という事はもう少し検討されても良いだろうと感じます。

 

例えば、今日は一つ紹介したいのは、「学生はスポーツ/体育会をやっていた方が、昇進できる。うまく仕事ができる。協調性が高い。」という辺りの主張です。

結構ゴリゴリの体育会系の先生が主張されている事も多く、病棟実習でも聞く事の多い話だろうと思うので、大きく親和性を感じる方もいる一方で、拒否反応を示される方もいると思います。医学部以外でも主張されることって結構あると思います。さて、どっちなんやろうねぇ。と思いませんか?

 

いくつか論文を紹介しておくと、中々面白い事実が出てくるように思います。

まず、体育会ではなく、スポーツ一般の経験に関する論文では、肯定的な結果が多いように思います。

Cabane and Clark (2011)は、Charlotte Cabane & Andrew E. Clark, 2011. "Childhood Sporting Activities and Adult Labour-Market Outcomes,"という論文で、アメリカの事例ですが、高校時代にスポーツ経験が週一回あると、成人時の時給が1.5%高い、なんて事例を説明しているようです。理由としては、クラブに所属する方が協調性が高まること、職務遂行性が高まること、組織内でリーダーシップを取る力が高いこと、忍耐力、根性があること、が挙げられています。また、スポーツ活動をしている従業員は健康的で体力があることから、健康・体力面からの人的資本投資が生産性を高めて, それが昇進につながる、という見方も有力のようです。

他の研究なども総合しても、寄与の大きさには議論がありますが、スポーツ一般が人的資本価値を高め、労働者全体で見た際は、賃金や昇進に良い影響があるというのは経済学上はコンセンサスになっているようです(鶴 2014)。

 

一方で、日本において、大卒者とそうでない者を比較をした論文は大変興味深いです。

大竹(2009)の同一企業内(自動車会社)の研究ではありますが、高卒のスポーツ活動は昇進や賃金に有意に影響があるが、大卒の活動は有意に影響がないです。しかも、高卒のスポーツ活動の影響は係長以上になると消えてしまいます。

また、大卒者が熱心にスポーツに取り組んだかどうかは昇進や賃金に寧ろ負の影響があります。論文内では、 学生時代にスポーツ活動をあまりに熱心にしたせいで、勉強が疎かになり、職務遂行に重要な知識人的資本が充分に蓄積されず、職務遂行能力の低下につながり、昇進が遅れることになった、と推論しています。

つまり少なくとも大卒で求められるような職務や係長以上のような高度や職務に関してはスポーツ経験はあまり関係なさそう?という推論がここにできます。

 

これをサポートする結果として、日本の体育会を研究した論文があります。

松崎(2004)では、複数企業で大学時代の体育会出身者が昇進をしたかどうかを分析しており、昇進に正の影響は見られなかったという結果が出ています。また、必ずしも部長やキャプテンが上位の職位に昇進しやすいわけでもなく、むしろ、その可能性が高いのは、「体育会系のクラブ・サークルでマネージャー、主事または会計」 を経験していた者であるという結果でした。著作内で筆者は企業ではマネージメント能力のようなものが企業では求められるのではないかと結論づけています(松繁寿和 大学教育効果の実証分析―ある国立大学卒業生たちのその後 より)。

 

以上の結果からスポーツをやっていたから、大学の体育会だから、昇進が早い、仕事ができる、という結論は少なくとも簡単には、導き得ない可能性は十分にあって(スポーツ経験が個人の能力の向上につながるというのは言えそうですが)、むしろ「高校での部活はともかく、大学では、勉強も頑張っておいた方が良さそう。」というのが出しやすい結論かなぁと思っています。まぁ、考えてみると妥当な結論ですよね。高校までに、スポーツくらい経験しておけよ、大学は勉強はした方がええで、という。

しかも、体育会かどうかは昇進に余り関係なく、更に大学でスポーツを頑張っているであろう主将が昇進に繋がらないというのが、なんとも嫌ですよね。勿論、あくまで傾向に過ぎないので、主将が出世している例なんかはごまんとあるのですが。

また、医学部には当てはまらないよねぇ、という指摘はあり得ると思います。ですので、いつかは、うちの大学やよその大学の人事を追っかけて研究をしてみたいものです…(笑)

 

「スポーツを経験している/体育会出身だと出世/仕事ができる」

という主張に対しては

「スポーツは仕事に対して、賃金などで良い影響を与える。しかし、高校時代はともかく、大学で体育会所属だから昇進できる・賃金が良いという事はない。大卒レベルの仕事では、スポーツを熱心に行う事はマイナスになる場合もある。少なくとも、体育会だから仕事ができる傾向にある、という事は簡単には断言できない。」

というのが現状で出せるせいぜいの結論かなぁと思っています。いろいろエビデンスを漁っていくと面白いですねぇ。個人的にはディベートを学ぶ人が増えて、こういう事に基づいて議論ができる人が増えると良いなぁと思っています。

(ディベーターだと、鶴先生とか、大竹先生とか、絶対ご存知だと思うので、ニヤリとされるのではないかと思います笑)

 

今後、面白い論文を読んだら、ここに共有しようと思います。

このブログは自分が面白いと思った疫学のエビデンス、社会科学のエビデンス、それ以外の記事など(できれば蓋然性高い話をしたいですが)、辺りを紹介する感じにしつつ、自分の忘備録として今後運用していく予定です。

ではでは。また。

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大竹先生の本、僕は沢山は持っていないのですが、とりあえずこれは面白かったので共有しておきますね。また幸福度に関しては、まとめておきたいですね(疫学もやらなきゃ…)。

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